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今さら聞けない新規事業開発のキホン「事業アイデアってどうやって見つけるの?」

2022.08.15

目次

     

    0.導入

    これまで約80社、7,800件以上の新規事業を支援してきた株式会社アルファドライブ(AlphaDrive)では、毎月オンラインセミナーで新規事業開発に関するノウハウや知識を紹介しています。
    2022年夏には新シリーズ「今さら聞けない新規事業開発のキホン」セミナーがスタート。AlphaDriveの執行役員兼イノベーション事業部 事業部長の古川央士が、新規事業開発に欠かせない「顧客と顧客課題の見つけ方」について基礎から解説します。

     

    1.そもそも、事業アイデアとは何か?

    そもそも「事業アイデア」とは、どういったものを指すのでしょうか。
    このような問いに対して多くの人は、頭の中にある具体的なビジネスモデル、サービスやソリューション、活用したいテクノロジーのアイデアなどについて語ります。もちろんこれらは事業アイデアの一部ではありますが、大事なポイントが欠けています。
    まずは事業アイデアを正しく理解するために、「あるあるな事業アイデア」の例を用いて説明したいと思います。
    例えば、大手食品メーカーが新しいビジネス領域の開拓を検討しているとしましょう。社内では以下のような分析と新規事業の提案がありました。

     

     

    私自身、新規事業開発の支援をさせていただきながらこのような事業提案を何度も見てきました。一見、「それっぽい」事業提案に見えますよね。
    「自社の置かれている環境」と「市場の分析」がはじめにまとめられており、その次に活用したい「自社のアセット」について触れられています。そのうえでサブスクリプション型の新しい「ビジネスモデル」を提案し、最後には新事業が「スケールする可能性」も示しています。この提案を分解し、構成を見るとこうなります。

     

     

    他にも「マーケティング・チャネル」や「競争優位性」など、さまざまな要素が事業提案に盛り込まれることが多いと思います。

     

     

    いずれも重要な観点になりますが、ここには事業アイデアにとって一番重要なポイントが抜けています。

    それは「顧客と課題」です。

    このサービスを使いたい、商品を手に取りたいと思うお客様がどんな人で、どんな課題を抱えているのかが明記されていません。お客様がこの商品を求めている背景の描写もない。AlphaDriveではこういった事業アイデアを「顧客不在」と呼んでいます。「顧客不在」は新規事業開発の初期フェーズで人々がもっともはまりやすい罠です。

     

    2.「事業」とは? 顧客は何に対価を払うのか

     

    では、事業アイデアのあるべき姿を理解するために、まずは「事業」とは何かについて考えてみましょう。「事業」を辞書やネットで調べると「商品やサービス、組織等を手段として収益を創出する活動」などと説明されています。ポイントは「事業は収益を創出する活動である」という部分です。

    誰しも事業開発の初期段階では、思いついたアイデアが収益を生み出すことができるかどうかについて考えるでしょう。ここで忘れてはならないのは、収益をもたらしてくれる人は「顧客」だということです。
    皆さんの商品やサービスをまったく欲していない人が突然お金を払ってくれるなんてことはありえませんよね。顧客が抱いている課題が皆さんの商品を購入することで解決される場合、顧客は初めてお金を払い、最終的に、その支払われたお金が皆さんの事業の収益となります。
    もし顧客課題について考えないまま商品を作ってしまったら、売れないという最悪な事態が起きてしまいます。大変な思いをしながら一生懸命商品を作った後に、投資回収ができず慌てふためいても手遅れなのです。
    つまり、事業とは「顧客課題の解決によって収益を得ること」なのです。顧客と課題こそが事業が生まれる種(アイデア)だと言っても過言ではありません。

     

    3.事業アイデアを見つけるには、顧客に会いに行き、課題を見つけよう

     

    事業アイデアは、「マーケットイン」と「プロダクトアウト」の2つの方法で見つけることができます。
    マーケットインは「顕在化している顧客課題」に着目して事業をつくること、
    プロダクトアウトは「潜在的な顧客課題」に注目してヒアリングを重ね、商品をつくることを指します。

    ちなみにプロダクトアウトは、作りたいものをつくって結果的に顧客に喜んでもらう手法だと誤認識されているケースも見受けますが、それは大きな間違いです。プロダクトアウトもマーケットインも、どちらも顧客課題をベースに事業をつくります。

    また、ユーザーは求めているものを正しく言語化できないということを覚えておくといいかもしれません。
    まだ馬車が主流の時代のアメリカに自動車を普及させた起業家、自動車会社フォード・モーターの創業者、ヘンリー・フォードの「もし私が顧客に何がほしいかを聞いていたら、彼らはもっと速い馬がほしいと答えただろう」という言葉はビジネスパーソンの間でもよく語られています。

    この言葉を聞いて「顧客に話を聞いたって、求められているものは見つからないのではないでしょうか」と言う人もいます。しかし、大事なのは「なぜもっと速い馬がほしいのか」と聞き返すことです。要は課題を深掘りすることが重要なのです。潜在的、顕在的、いずれも顧客の課題をわかりやすく言語化することが重要です。

     

    出典: https://www.slideshare.net/storywriterjp/ss-249984164

     

    たとえば「目的地にもっと早く着きたい」という回答が返ってきたのなら、さらにその理由を尋ねるべきです。
    「目的地にもっと速く着きたい」理由が、「相手に早く情報を伝えたいから」であれば、速い馬や車ではなく、新しい通信手段が顧客にとって解決策になるかもしれません。ヒアリングの際は、ユーザーの話を鵜呑みにせず、その言葉や行動の裏にある真の課題を深掘りして課題を丁寧に言語化することを心がけてください。

    じつは、顧客に話を聞きに行けるかどうかは、新規事業を立ち上げられるかどうかの分岐点でもあります。顧客への一般的なヒアリング方法は、街頭インタビュー、知り合いの紹介、SNSの活用などです。どれもシンプルな方法ではありますが、人に話を聞くのは勇気のいることであるため、半分以上の人がこの過程で脱落します。無事ヒアリングを続けられた人は、自信を持ってもいいでしょう。

    新規事業開発初期の段階では、「どうすれば事業アイデアを見つけることができるのか?」と悩む人も多いはず。その場合、事業アイデアではなく「どうすれば顧客課題を見つけられるのか」という問いに変換して考えるといいかもしれません。

     

    4.顧客課題を見つけるための、3つのステップ 

    それでは、どのように「顧客課題」を見つけるのがよいのでしょうか。

    それは大きく3つのステップ、
    ①領域やテーマを決める
    ②具体的な顧客を決める
    ③顧客の課題を見つける

    の順番で進めます。場合によっては②と③を行き来することもあります。

     

     

    ステップ1の「領域やテーマを決める」ために私がおすすめしている方法は次の3つです。

    1.身近な生活から発想する
    2.社会課題から発想する
    3.事業周辺領域から発想する

    1つ目の「身近な生活から発想する」は、ライフイベント軸とライフスタイル軸で分けると考えやすいです。ライフイベント軸は、進学や就職、結婚、出産、住宅購入、介護など、課題の顕在化しやすい人生の節目から考えます。ライフスタイル軸は、趣味、健康、運動、食事、衣服、家事、美容など、日常にあふれているテーマから、顧客課題のキーワードを考えます。

     

     

    2つ目の「社会課題から発想する」は、たとえばSDGs(持続可能な開発目標)の17の目標を参考にテーマを探すといった方法です。
    しかし、SDGsの17の目標はあまりにもグローバルで大きな課題であるため、顧客の課題にたどりつきにくく、テーマ設定のハードルも高いです。
    そのため、SDGsのような社会課題に「日本」というキーワードを掛け合わせて絞りこんでみることをおすすめしています。そうすると「不登校児童」「空き家率」「動物殺処分」など、日本社会特有の課題が見えてくるはずです。そのほうが顧客課題のイメージも湧きやすいと思います。自分の身近な社会課題から発想するのがいいでしょう。

     

     

    3つ目は「事業周辺領域から発想する」こと。たとえば、私が所属するAlphaDriveは企業変革や新規事業開発の支援をメイン事業としています。そこを起点に考えると、人材育成、組織変革、M&A、商品開発など新しい事業の可能性がいくつか見えてきます。

     

     

    実際にAlphaDriveの子会社には、大企業とスタートアップの協業支援を手がける株式会社ユニッジ(UNIDGE)という企業があります。UNIDGEは大企業とスタートアップの協業の難しさに着目し、「協業を型化し成功確率を上げる」という目標のもと立ち上がった新規事業です。AlphaDriveの事業の周辺領域でもあるオープンイノベーションや組織変革を扱っているため、子会社として取り組みやすい事業だったと言えます。

     

    5.具体的な顧客を決める方法は?

    顧客課題を見つけるためのステップ2「具体的な顧客を決める」では、「顧客星座」を書くことをおすすめしています。

    顧客星座はステークホルダーマップとも呼ばれています。たとえば、ステップ1でおすすめしたライフイベントからテーマを考え、介護の領域に注目したとしましょう。介護の領域からいくつかキーワードを抽出し、どんな人が顧客になりうるか考えていきます。

     

     

    介護士、介護サービスを受ける人、介護領域に携わる企業や行政、医者、介護対象者のご家族……。このようにさまざまなステークホルダーを事業の「顧客」として考えます。ステップ1で設定した事業テーマだけではキーワードにすぎないので、事業テーマから「事業の顧客」について考えるのがステップ2の目的です。

     

    6. 最後のステップ。顧客の課題を見つけるには

    最後のステップ3で具体的に「顧客の課題を見つける」フェーズに入ります。ステップ1で「介護領域」、ステップ2で「ケアマネジャー(介護支援専門員)」を顧客に設定したとしましょう。ケアマネジャーの業務や1日のスケジュールを整理した上で、実際に顧客のもとに行き、業務に潜む困りごと(課題)をヒアリングします。
    顧客課題を絞りすぎると、ターゲットにする市場が狭まり、事業拡大が見込めなくなるのでは? と疑問を持つ感人もいると思います。しかし、課題を見つけるフェーズでは、ある程度絞り込むことが大事であることを意識してください。

    順序としては、一度課題を絞り込んでから、その課題を持っている人はどれくらいいるのかを調べることをおすすめします。事業を進めていくうちに新たな顧客が見つかることもよくあります。
    なお、顧客の課題を起点に事業アイデアを考えると、競合の存在にも気づくはずです。そのなかで競合優位性を出すためには、UVP(Unique Value Proposition=独自の価値の提案・提供)を意識するといいでしょう

    例えば、スマートフォンで鍵を開け閉めできるスマートキーは、「鍵をなくすかもしれない」というユーザーの課題を解決するだけでなく、ハンズフリーで解錠できる機能や、鍵を家族や他人に一時的に共有できる機能を追加することで競合優位性を得ています。それによって、より顧客に選ばれるプロダクトに近づいたと言えるでしょう。事業アイデアは顧客課題から考えることが基本ですが、その上でもし余裕があればUVPも意識してみてください。

    ヒアリングをしたら、ジャーニーマップのようにプロセスを可視化するなどして情報をしっかり整理しましょう。特に困っていそうなところを見出すことで、事業を通して解決したい課題にたどり着くことがステップ3のゴールです。

     

     

    ちなみに色んな人に会ってたくさんの意見をいただくなかで、どの意見が大事なのか、本当に解決すべき課題は何なのかがわからなくなってしまう「ヒアリングの沼」という状況に迷いこむときもあるでしょう。
    そういう場合は、非常に面倒で「ほとんどの人が付き合ってくれなさそう」な実証実験(プロトタイプ)をあえて実施してみるのもひとつの手です。
    おそらくそんな実証実験に「ただ文句を言っているだけ(=じつはそれほど切実な課題ではない)」の人は参加してくれないでしょう。しかし、本当にその課題を解決したい人や困っている人であれば手伝ってくれるはずです。
    ヒアリングが「過去の経験」から課題を深掘りする手法だとすれば、実証実験は「未来の行動」から課題を見つけ出す手法です。ヒアリングの沼にハマって顧客の課題を見つけられずにいる人は、「顧客が行動を起こしてくれるかどうか」をひとつの指標として実証実験を行ってみるのもいいでしょう。

     

     

    7.まとめ

    今回は「今さら聞けない新規事業開発のキホンvol.1 顧客課題を間違わないためのアイディエーション法」として、事業アイデアの見つけ方についてお話ししました。
    多くの人はどうしてもソリューションやビジネスモデルから考えてしまい「顧客不在」の罠に陥ってしまいますが、新規事業開発では顧客に会いに行き課題を見つけることが一番重要なのです。
    社内起業家を志す人が持つべき問いは、どうすれば事業アイデアを見つけられるかではなく、「どうすれば顧客課題を見つけられるか」です。そうすることで、顧客のニーズを間違わず、事業を組み立てることができるでしょう。
    今回紹介した事業アイデアの概念と、アイデアの見つけ方を参考にしながら、「顧客課題」に辿り着いてください。

     

    (執筆:ぺ・リョソン、編集:佐々木 鋼平)

     

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    https://alphadrive.co.jp/reports/event-report/sumitomoshouzi/

    https://alphadrive.co.jp/reports/event-report/suntoryplus/

    筆者について

    株式会社アルファドライブ 執行役員

    古川 央士

    青山学院大学卒。学生時代にベンチャーを創業経営。その後、株式会社リクルート(現リクルートホールディングス)に新卒入社。SUUMOでUI/UX組織の起ち上げや、開発プロジェクトを指揮。その後ヘッドクオーターで新規事業開発室のGMとして、複数の新規事業プロジェクトを統括。パラレルキャリアとして、2013年より株式会社ノックダイスを創業。2015年にはカフェ・バー「Bottles」をオープン。2018年にはイタリアンレストラン「trattoria filo」をオープン。またNPOでの活動や、一般社団法人の理事などを兼任し、数多くのイベントをオーガナイズ。社内新規事業や社外での起業・経営経験を元に、2018年11月、株式会社アルファドライブ執行役員に就任。リクルート時代に1,000件以上の新規事業プランに関わり、10件以上の新規事業プロジェクトの統括・育成を実施。アルファドライブ参画後も20社以上の大企業の新規事業創出シーン、1,700件以上の新規事業プランに関わる。

    青山学院大学卒。学生時代にベンチャーを創業経営。その後、株式会社リクルート(現リクルートホールディングス)に新卒入社。SUUMOでUI/UX組織の起ち上げや、開発プロジェクトを指揮。その後ヘッドクオーターで新規事業開発室のGMとして、複数の新規事業プロジェクトを統括。パラレルキャリアとして、2013年より株式会社ノックダイスを創業。2015年にはカフェ・バー「Bottles」をオープン。2018年にはイタリアンレストラン「trattoria filo」をオープン。またNPOでの活動や、一般社団法人の理事などを兼任し、数多くのイベントをオーガナイズ。社内新規事業や社外での起業・経営経験を元に、2018年11月、株式会社アルファドライブ執行役員に就任。リクルート時代に1,000件以上の新規事業プランに関わり、10件以上の新規事業プロジェクトの統括・育成を実施。アルファドライブ参画後も20社以上の大企業の新規事業創出シーン、1,700件以上の新規事業プランに関わる。

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