キリンホールディングス、2年連続で新規事業提案が質・量ともに向上した理由

キリンホールディングス株式会社では2019年から、社内向けの新規事業公募プログラムに株式会社アルファドライブ(AlphaDrive)の新規事業開発制度設計コンサルティングと事業開発プロセス伴走支援、新規事業開発特化型の総合支援ツール「Incubation Suite(インキュベーションスイート)」を導入しています。

2017年から社内でプログラムを実施していたというキリンホールディングス。AlphaDrive導入の狙いや、コロナ禍にもかかわらず新規事業の応募件数を大きく増やすことができた理由、また応募アイデアの質的な変化についても聞きました。

聞き手はAlphaDrive インキュベーション事業部 シニア・ディレクターの白杉大がつとめました。

西前 純子

経営企画部主幹

長谷川 幸司

経営企画部主査

畠山 廣敬

経営企画部

白杉 大

AlphaDrive インサイドインキュベーション・リード

導入の狙い

新規事業公募プログラムのグループ会社全体での認知を高め、提案数を増やしムーブメントをつくりたい。メンタリングなど提案者への伴走を強化し、質の向上につなげたい。

AlphaDrive白杉(以下AD白杉):
キリンホールディングス様では2017年から事業提案のプログラムが始まり、AlphaDriveは2019年から支援させていただいています。プログラム立ち上げの経緯を教えてください。

これまでにない、全く新しい価値を生み出したい

西前様:
元々2017年以前にも、アイデア創出に興味がある人で集まって新しいサービスを考えようというワークショップはありましたが、本当に事業化するというところが難しかったです。既存事業ではもちろん、普段の仕事の中で新商品を生み出してはいますが、これまでにない、全く新しい価値を生み出すのはかなりパワーが必要。なかなかブレイクスルーが起こらなかったのです。

そこで、ホールディングスの企画部門が主導し、事業提案プログラムを作ったのが2017年でした。新規事業に取り組むこと自体が久しぶりで本当に手探りでしたが、手応えが出てきたので、会社としてリソースをしっかりかけて、支援体制や担当者のコミットも高めた上で、一度本気で取り組んでみようということになりました。

白杉:
当時の課題感はいかがでしたか。

西前様:
最も大きい課題は、プログラムの社内での認知が圧倒的に低かったことです。「知っている人は知っているけど」という程度で、会社として本気でやっているということがなかなか伝わっていませんでした。また、新規事業をやりたいという気持ちはあってもどう実行に移せば良いかわからない、実行に移すとしても何をすればいいかわからないという状況でした。
また我々事務局側の関わり方も不十分で、本格的に取り組むにはもっとコミットが必要だと感じていました。

白杉:
なぜ我々AlphaDriveにお任せいただいたのでしょうか。

西前様:
当時私は新規事業だけでなくベンチャー支援なども担当しており、とあるイベントでAlphaDrive CEOの麻生要一さんの講演を聞いたのがきっかけです。麻生さんの話が直感的に右脳に響き、一緒にやってみたいと思いました。事業提案コンテストを本格化させるにあたり、AlphaDriveさんを選ぶということは、私たちも成果を出さないといけない。本気で取り組まなければと、いい意味で私たちにとってはプレッシャーになりました。ある種の賭けでしたね。

提案数を増やすため、がっつりコミットしなきゃ

麻生さんとの面談で最初に言われてショックだったのは、「新規事業の提案数はまず100件を目標にしましょう。キリンホールディングスさんのような会社は本来、300を超えないとおかしい」という言葉です。お願いする以前は60件程度。私自身がっつりコミットしなきゃ、頑張らなきゃという気持ちになりました。

白杉:
キックオフイベントには麻生も登壇させていただきましたね。

西前様:
とにかく流れを変えようと、麻生さんのセミナーはマストでお願いしました。新制度を社内に発表するイベントで、「新規事業に興味がある人集まれ」と。

過去2年間のプログラムで提案があり、事業化に向けて進んでいるプロジェクトにも登壇してもらいました。食品プロダクトの量産化をサポートする株式会社リープスインを2018年に立ち上げたCEOの日置淳平にも出てもらいました。

日置淳平

株式会社リープスインCEO

Food Researcher/Food Engineer 食品企業にて、工場で生産管理、品質保証、ユーティリティ管理などを経験したのち、研究・開発部門にて新規生産技術の開発およびその工業化に携わる。新たな食品プロダクトに関する数々のプロジェクトに関わってきた経験を活かし、株式会社LeapsInを立ち上げ、これまでの産業構造では取り組みきれなかった食にまつわる社会課題の解決を目指す。 (リープスインHPより)

Food Researcher/Food Engineer 食品企業にて、工場で生産管理、品質保証、ユーティリティ管理などを経験したのち、研究・開発部門にて新規生産技術の開発およびその工業化に携わる。新たな食品プロダクトに関する数々のプロジェクトに関わってきた経験を活かし、株式会社LeapsInを立ち上げ、これまでの産業構造では取り組みきれなかった食にまつわる社会課題の解決を目指す。 (リープスインHPより)

食品を新たにつくりたいと思っているオーナーに対して、稼働に余裕のある工場や、最適な物流・販路とのマッチングをサポートするサービスです。参加者も多く、役員クラスも聞きにきてくれて、インパクトがありましたね。

「新規事業は誰でもできる」。響いたメッセージ

麻生さんのセミナーで共感したことの一つが、「大企業のサラリーマンでも、新規事業は正しいステップを踏めば誰でもできる」という言葉。プログラム自体、誰でも応募できるということを訴えたかったので、分かりやすい言葉でハードルを下げていただき、心に響いたと思います。

事業提案のプログラム自体、ずいぶん内容を変えました。それまでは一定の基準を超えたアイデアについては、当時社内でスタートアップ支援を担っていたアクセラレータープログラムに投入し、ベンチャー企業と一緒に走ってもらうという形を採っていましたが、我々がしっかり伴走していく形になって、そこは大きな変更でしたね。

社内広報の「頻度」「質」を劇的にアップ

AlphaDriveさんに社内認知を上げることを課題の一つとしてセットしていただいたので、社内広報にものすごく取り組みました。あんなに社内広報したのは自己最高ですね。やれることは全部やりました。発信の「頻度」と「質」を上げましたね。

イベントをコンテンツ化し、1件のイベントで何度も刈り取るような形で全社のイントラネットと特設のWebサイトに記事をアップしていきました。自分で新規事業をやりたい人と、応援したい人と、関心はあるけど横で見ていたいという人などのセグメントがあり、それぞれ刺さり方は違う。ターゲットに合わせてコンテンツを出し分けていました。

AlphaDriveさんにいい意味で煽られながら、広報シナリオを作って、あとは愚直に発信しました。コンテストの締め切り間際は週に1回はひたすら目につくように、PCを立ち上げると出てくるポップアップに頻繁に。垣根を低く、小粒でも球を出し続けるのが広報の鉄則ですね。

定量的に、特設サイトのアクセス数などを見ながら、数字でいかに結果を出すかを心がけました。今後を考えて、情報開示の透明性も心掛けました。

大体「やろう」と思ったことはやりきったという1年目でした。

一つひとつの施策の重要性を、腹落ちして動けた

白杉:
結果を受けていかがですか。

西前様:
残念ながら応募数は95件で100件に達することができず、悔しかったのですが、目標には近づきました。認知はぐっと上がったと思います。「今年はあちこちですごく見たので、応募しました」という声も多かったです。応募内容の質も確実に上がりましたね。

別にAlphaDriveさんがコンテンツを書いてくれたわけでも、計画を作ってくれたわけでもないんです。これまで同様、全面的に自分たちでやってきました。

ただやはり、AlphaDriveさんに入っていただいて、ちゃんとチェックしてくださったのが大きかったですね。一つひとつの打ち手の意義について腹落ちして動けたということと、「どうすべきか」「こういう結果が出た」と常に相談、報告できる人が、外部でいてくださるのがすごく良かったなと思います。

白杉:
ありがとうございます。

メンタリングを経て、ガラッと見違えるような事業に

西前様:
書類審査通過者へのメンタリングについては、2019年当時はAlphaDriveさんにお任せしていましたね。毎週ラブレターのように報告をいただきました。事後のインタビューで皆さん「メンタリングが良かった」と言ってくれていましたね。

書類審査の時に、新規事業関連とは全く異なる部署に所属していたのですが、顧客課題の視点でキラリと光るものがある社員がいました。書類審査通過後、メンタリングを受けながら顧客の元へ足繁く通い、そこで新しい発見をして、ガラッと提案内容が変わりました。かなり大変なプロセスだったと思いますが、定期的なメンタリングで叱咤激励されながら、現場で見逃されていた根深い課題を発見したんです。最終審査も通過し、今新事業の立ち上げを目指していますが、彼の成長は印象深いエピソードの一つですね。メンタリングのプロの力を感じました。

白杉:
関心も思考力も高い方でしたね。こうした顧客の課題に着目できる、柔軟で意欲的な人材を発掘できることも、新規事業の公募施策を実施する意義の一つだと思っています。また、なかなか決めきらない時に、最後は「ご自身の事業ですから自分で決めてください」とフィードバックしたことが印象に残っているとおっしゃってくださいました。既存事業では自分で決め切る、という機会が少ないため、そうした正解の無い中自分で判断していく、という経験をしていただけるのも、公募制度の副次的な効果ですね。

また、貴社の特徴として起案のバリエーションが広かったと感じます。営業の方から研究職の方まで、バックグラウンドが全然違う応募者の皆様に合わせてメンタリングさせていただきましたね。

応募数増に向け、2年目は「面」を広げた

白杉:
続きまして、AlphaDriveとして参画させていただきました2年目である2020年度のお話をぜひ。

長谷川様:
それまでは西前さんが一手にやっていましたが、私は2019年の最終審査と2020年のプログラムの準備から事務局に参画しました。

1年目で骨格は作ってもらったので、前年に完全に声をかけきれなかったところにも面を広げ、2020年から応募件数としては「135件」を目指そうということになりました。

私は出向元の製薬メーカーである協和キリンに、また畠山がキリンビバレッジや、新しく業務資本提携したファンケルに声をかけていきました。とにかく応募数を増やすよう力を尽くしました。

「社内で新規事業を経験することが、社員のスキルアップにつながり、本業にも良い影響をもたらす」というメッセージを発信し、応募者の動機付けをしつつ、上司にも応募への理解をしてもらえるようにしました。

目標を大きく超える応募166件、「顧客」と「課題」に注目

その結果、2020年は166件の応募があり、目標を達成しました。1年目でプログラムを知り、2年目で応募したという方も多かったですね。グループ会社に間口を広げたのも良かったです。ファンケルはかなり応募がきました。

畠山様:
まだ部署によってはまちまちですが、社員のキャリアの一つとしていろんな経験をした方がいいというリーダーも出てきてはいます。ちゃんとプログラムを理解してもらえていますね。

長谷川様:
まだまだソリューションをベースにした提案が多いですが、「顧客」と「課題」に注目している案件が増えてきています。

メンターによって、ブレない

また2019年のメンタリングの最終回から事務局以外の新規事業担当部署の若手にも入ってもらい、一緒にAlphaDriveさんのメンタリングのやり方を学んでいくようにしました。そこは大きく前進させたところですね。

長谷川様:
AlphaDriveさんのメンタリングを見て感じたことは、メンターの皆さんの根底にある思想が同じということです。メンターによって言っていることが全くブレないんですよね。

社員がメンタリングに一緒に入っても混乱しない。見ていて勉強しやすいですね。

長谷川様:
正直、僕は担当になってから、AlphaDrive以外の会社さんはどうなんだろうと色々調べていたんですが(笑)、お任せしてよかったです。サポートが2年目に入ると、麻生さんの著書『新規事業の実践論』(ニューズピックス、2019年)をすでに読んでます、という社員が結構出てくるんですよね。メンタリングを経て事務局に寄せられる質問も格段にレベルアップしました。一貫性を持って数年続けるのは大事なんだなと感じましたね。

白杉:
先日、三次審査がオンラインでありましたが、明らかにレベルが上がっていましたね。内容もそうですが、分かりやすい例として、1組7分のプレゼン時間に対し、三次審査に残った15組、みんな7分きっちり仕上げてきたんですよね。各起案者、事前検証だけでなくプレゼンに向けてもしっかりと準備されていたことが伝わりました。

新規事業開発支援ツール「Incubation Suite」でレベルアップ

またAlphaDriveさんが提供している新規事業開発の支援ツール「Incubation Suite」を見て、自ら様々なコンテンツから勉強できるのは参加者にとって親切だと思いますね。

Incubation Suiteでは他の起案者の案件を覗けるので、横目で他案件の進捗を見ながらレベルを上げてきましたね。事務局への質問のレベルも高まりました。

長谷川様:
去年に比べると確かに底上げされた感じはありますね。

白杉:
前年の通過者のレベルが高く、それを今年の起案者が見ているのでゴールが明確になり、グッとレベルが上がりましたね。

長谷川様:
麻生さんも「顧客300回」とおっしゃいますが、ブラッシュアップする段階で、コロナ禍のなかでもみんな、リモートなども活用しながら、顧客の話を聞いてきているんですよね。

畠山様:
「30人に聞いてきました」と当たり前のように話すんですよね。顧客の意見をしっかり反映させた提案が増えました。

新領域に挑戦することこそ、素晴らしい

白杉:
コロナ禍で新規事業どころではないという企業も少なくない中、応募数増につながった理由や、社内の盛り上がりについて、どう見ていますか。

畠山様:
社としての戦略につながりますが、社会的背景として近年、アルコールや砂糖について問題視されることもあり、私たちのビジネスも万全ではありません。「新しいことをやっていかないといけない」というメッセージはトップからも頻繁に発信されています。

ホールディングスの中でもキリンビールは今春から本格展開した会員制の生ビールサービス「ホームタップ」やここ数年盛り上がりを見せるクラフトビールへの挑戦などが象徴的ですが、新しい価値をどんどん提案していかないといけない、という雰囲気が強く、既存事業で成果を目指す一方で、新領域にも興味を持つ社員が多いですね。

これまで応募が無かった部署の方も積極的に応募してくれました。2年連続応募も2割ほどいましたね。コロナ禍でオンラインがベースになったからこそ、逆に全社的に参加しやすい雰囲気にできたかもしれません。

白杉:
最後に一つ、AlphaDriveのこだわりポイントをご紹介させてください。2020年のオープニングイベントでは、前年の通過者の方だけでなく落選者の方にもご登壇いただきました。「通過したから素晴らしい」ではなくて、「挑戦することが素晴らしい」ということをお伝えしたいという狙いです。引き続き、社員の皆様お一人お一人の挑戦を応援していきます。

プロジェクト担当者:白杉 大
構成:林 亜季
写真:曽川拓哉

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